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社会保険適用拡大 従業員への説明はどうしたらいい?

2022年10月より、従業員101人以上の企業で社会保険の適用拡大が始まります。
☆過去記事リンク→『社会保険適用拡大。対象企業は早めの対応を!』

社会保険適用拡大特設サイトなどのほか今年4月に令和4年度10月施行分としてQ&Aも公開されているので、対象の企業は改めて最新情報を確認をしておくと安心です。

☆リンク→『社会保険適用拡大特設サイト』(厚生労働省)
☆リンク→『令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大』(日本年金機構)
☆リンク→『短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和4年10月施行分)』

昨年のブログでは企業側の対応について触れましたが、今回はその中の1つ「従業員に説明をする際のポイント」について整理してまいります。


「社会保険に加入すると手取りが減るから扶養の範囲で働いた方がよいのでは?」「加入対象とならないように労働時間を減らすべき?」そんな風に悩んでいる従業員は多いのではないでしょうか。会社として社会保険の適用拡大について説明をする際のポイントは大きく3つあります。
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1.現在の労働条件で加入した場合、保険料や給付はどの程度変わるのか
2.加入したくない場合、労働時間や給与はどの程度になるか
3.加入するとした場合、労働時間を増やす・社員登用するなどの選択肢はあるのか

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個人ごとに年齢や労働条件などが異なることもあり、対象者が多い場合は説明にある程度時間がかかることを想定して早めに対応しておきたいところです。それぞれ見ていきましょう。

<事例前提条件>
40歳、1日6時間、週4日、時給1,100円で働いていた場合、1カ月を4週として月105,600円の収入と仮定
現状は週24時間勤務なので適用対象でなかったが10月より加入対象となる

1.現在の労働条件で加入した場合、保険料や給付はどの程度変わるのか

まずは保険料についてどのくらい影響があるかを伝えましょう。事例の前提条件で給与明細を作成し比較すると、加入前は手取り約10.4万円、加入後は約8.9万円と社会保険料の負担が増えて手取りが少なくなります。ただし、独身だった場合や配偶者がフリーランスなどで扶養に入っていないなどの事情で国民年金保険料(令和4年度の保険料は月額16,590円)や国民健康保険料を負担していたケースでは、会社の社会保険に加入をした方が保険料負担が減るため家計全体としてみると一概に負担増とは言えません。現在加入している社会保険についてヒアリングしたうえでどの程度変わりそうか、具体的な数字を提示して説明できるとよいでしょう。

■ 社会保険加入前

■ 社会保険加入後

次に保障についてですが、社会保険に加入すると国民健康保険や扶養であったときに受けられなかった給付を受けることができるようになります。上記のケースでは、以下のような保険給付が増えることに。

①老齢厚生年金
概算ですが年収120万として20年働くと仮定すると、基礎年金に月額約10,000円の厚生年金が上乗せされます。
何歳まで生きるかは誰にもわかりませんが、特に統計上長生きの傾向がある女性の場合、亡くなるまで給付を受けられる公的年金を手厚くすることは長生きリスクをカバーする有効な策となります。

出所:社会保険適用拡大特設サイト(厚生労働省)※年金額は概数であり実際の金額とは異なります。


②傷病手当金
プライベートの病気やけがで休む場合、健康保険から「支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×3分の2」の所得補償が受けられるようになります。標準報酬月額104,000円として30日分と仮定すると約7万円が非課税で受け取れます。
傷病手当金はコロナに感染した場合も対象となり家計をフォローしてくれたケースを見て改めて心強いと感じました。また、民間の医療保険などに加入している社員の方は社会保険の加入を機に保険の見直しをすることで保険料支出を減らせるかもしれません。家計全体の収支で判断してもらえるよう、保障の見直し方に関する情報なども会社側から提供できるとよいでしょう。

☆リンク→全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき」

③出産手当金
出産前42日~出産後56日の産前産後休業期間において、健康保険から出産手当金が受けられます。金額は傷病手当金と同様でもし98日分と仮定すると約23万円が非課税で受け取れます。出産をする可能性がある場合はその間の家計も社会保険でフォローできるようになります。

☆リンク→ 全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき」

④障害年金・遺族年金
厚生年金保険は障害や死亡における給付もあります。保険事故として該当するケースは多くないと思いますが、障害年金は受給できることを知らずに申請していないケースなどもあります。障害や死亡の保障が増えることを伝え、ポイントを抑えて制度の概要を案内しておくことをお勧めします。説明の際は日本年金機構のサイトのほか、各種パンフレットなどを活用するとよいでしょう。

☆リンク→ 障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額 /遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額) /パンフレット 年金の給付に関するもの(日本年金機構)

保険料と保険給付がどう変わるのか、自分のケースで知ることが大切!


⑤その他
協会けんぽではなく健康保険組合への加入であった場合、組合の付加給付や人間ドックなど検診の補助があるケースがあります。組合加入の場合は合わせて情報提供するとよいでしょう。


2.加入したくない場合、労働時間や給与はどの程度になるか
社会保険適用拡大における労働時間の要件は「週所定労働時間が20時間以上」です。加入をしたくない場合は所定労働時間を20時間未満にする必要がありますが、その場合、収入自体が減ってしまうことに。事例のケースで仮に週4日勤務を週3日勤務に変更したとすると、6時間×週3日×4週×時給1,100円=月額およそ79,200円となり、労働時間を減らす場合も家計への影響は避けられません。労使で話し合いながら実際に試算して判断することをお勧めします。


3. 加入するとした場合、労働時間を増やす・社員登用するなどの選択肢はあるのか
加入した場合、社会保険料負担が増える分手取りが減るため、同水準の手取りをキープするために働く時間を増やすことも考えられます。こちらも労使の話し合いになりますが、事例のケースで週4日勤務を週5日勤務に変更したとすると以下のようになります。

■ 社会保険加入後 週5日勤務に増やした例

注意したいのは、所定労働時間が増える→所定の給与が増える→社会保険の等級が上がるとなると、給与だけでなく社会保険料も増えるということ。このケースでは標準報酬月額が104,000円から134,000円に。検討をする際は手取りで比較をしておいた方が実際のイメージをつかみやすいです。老後の年金や万が一の時の傷病手当金などの給付も増えるので保険料と給付の両面でどの程度変わるのか認識を合わせておきましょう。等級ごとの保険料は協会けんぽのホームページから確認することができます。健康保険組合加入の場合は各組合へご確認ください。

☆リンク→ 令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)全国健康保険協会

労働時間を増やすのであれば、いっそのことパートタイマーではなく正社員になるなど職種から見直すことも考えられます。会社に正社員登用制度があるケースなどは、社会保険の加入を機にキャリアアップを目指すなど、どのような選択肢があるか整理して提示できるとよいでしょう。


以上、3つのポイントを見てきましたが「扶養を外れる」「手取りが減る」という部分だけにとらわれず、目に見えにくい万が一の保障や将来の年金などの給付、長期的なキャリアも含めて考えてもらうことが大切です。働く人にとっては生活への影響が大きい改正です。労働契約や社員の方の家計状況、現在加入している社会保険、価値観によって判断も異なるため、個別に説明できるように早めに対応しましょう。

働き方が多様化する中で老後も安定した暮らしをするためには社員自身にもライフプランを設計する力が求められます。年金額は人によって異なるので、この機会にねんきん定期便やねんきんネットで年金額を知ってもらうことも大切。想定していた年金額より少なく、老後の家計の課題に早く気づくことで判断も変わってくるかもしれません。4月より厚生労働省が開発した公的年金シミュレーターの試験運用も始まっていますので、説明の際に活用できると理解も深まるでしょう。

☆リンク→ 公的年金シミュレーター(厚生労働省)

法改正まであと数か月。早めに説明をして意向を確認することは社員との信頼関係を保ち、思わぬ人員不足を招くリスクなどを減らすだけでなく、保険料にかかる資金繰りの見通しも持ちやすくなります。行政の資料やツールもうまく活用して適切に対応していきたいですね。

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ウェルス労務管理事務所 佐藤麻衣子

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